LIVZON STORY 07
たてものを「地域特性に合わせて機能する」いきものに。
蓬田村役場の新庁舎建設プロジェクト。

災害に強く、利用しやすく、そして環境に優しい庁舎を目指して
海のそば、青森県東津軽郡蓬田村。人口約2,400人のこの村に、2025年8月、新たな村役場が誕生しました。老朽化や津波リスク、耐震性といった課題を抱えていた旧庁舎からの移転。災害に強いこと、村民が利用しやすいこと、そして環境にも配慮していることを目指した新庁舎です。大成温調は、この施設の空調衛生設備工事を担当しました。
田園風景のなかに建つ、新しい拠点
新庁舎の建設地は、田んぼが広がるのどかなエリア。すぐそばには交通の要となるバイパス道路も通っています。ただ、このバイパスと田んぼの間にはおよそ2メートルの高低差があったため、地盤の高さを上げてバイパスに合わせる造成工事が行われました。その影響で、私たちが担当した空調衛生設備工事にも、特有の調整が必要になりました。例えば、水道管の引き込み。通常であれば、裏手の旧道を通る給水本管から建物までそのまま配管を延ばせばよいのですが、今回は建物の床面が周囲より高くなったことで、その方法だと配管が深く埋まりすぎてしまい、将来的な点検や補修が難しくなる恐れがありました。そこで、地盤の仕上がりに合わせて、現場の状況を見極めつつ作業を積み重ねていきました。また、建物下に設置する排水管に関しても、土地の整備の進み具合に合わせて段階的に施工する必要があり、作業の手順やタイミングにも工夫が必要でした。普段は目に見えない部分ですが、建物の足元にはこうした丁寧な仕事が積み重ねられているのです。
自然の力を活かして、快適と省エネを両立
蓬田村役場新庁舎では、環境への配慮も大きな特徴となっています。その一つが「地中熱」を活用した設備です。地中熱とは、地下深くにある、年間を通じてほぼ一定の温度を保った自然の熱のこと。夏は外よりひんやりしていて、冬は外より暖かい――この性質をうまく利用することで、空調や雪対策の省エネルギー化を図っています。この庁舎では、敷地内に71か所の深い穴を掘り、そこに専用の配管を設置。各機器に水熱源を供給しているほか、建物の周りの通路には「融雪設備」も導入。除雪車が入りにくい場所に、地中熱を用いて雪を溶かす仕組みが備えられています。冬でも安心して歩けるように、地中熱が静かにサポートしているのです。
さらに、1・2階の来庁者対応エリアには「床吹き出し空調」が導入されています。これは、床の下に空気を送り、足元からやさしく空気を循環させる方式で、エアコンのように直接風があたることもありません。また、自然に近い快適さを保てることが特徴です。人が多く集まり、空間が広く、足元の暖かさを重視する東北地方の庁舎や体育館などで採用される例が見られ、空調効率が向上することで省エネルギー性にも優れたシステムです。
庁舎1階のエントランスホールには、地中熱の活用によって削減できたCO2排出量や、深さごとの地中温度などを表示するモニターも設置。目に見えにくい省エネの取り組みを、来庁者が直感的に理解できる仕組みが整えられています。
建物のサイズこそ大きくありませんが、その内部には、地域の未来を見据えた多くの知恵と技術が詰まっています。自然の力を活かし、住民の暮らしに寄り添いながら、長く快適に使い続けられる庁舎。頼もしい新たな拠点となりました。